ライフシフト(ワークシフト)を余儀なくされる人生100年時代は、無形資産がこれまで以上に重要です。無形資産が金融資産を育む礎であるだけでなく、人生を豊かに自由に暮らせるようにしてくれる必須条件だからです。無形資産を支えるのが「コミュニケーションスキル」です。しかしコミュニケーションスキルは「縁起」そのもです。ビジュアルで世界を表現した「曼荼羅」が描く因縁そのものです。
コミュニケーションスキルのコアは、率直、誠実、対等、そしてそれらを支える自己責任のアサーティブ4本柱です。アサーティブ(assertive)とは、「自己主張すること」という意味です。
ここでいう自己主張とは、自分の主張を一方的に述べることではなく、相手を尊重しながら自分も尊重する、Win-Winをめざした適切な方法で自己表現を行うことです。
つまりアサーティブ・コミュニケーションとは、共生を念頭にお互いを尊重した意見を交わすコミュニケーションのことです。
概念的には「ああ、そうか。もっともだね」と理解できますが、現実には「遅延」という思いがけない落とし穴があることに注意しましょう。
コミュニケーションのテクニックと諸行無常の実際
同じように周囲の人ももっと幸せになっていいのだ。 」コミュニケーションの本質は、自分も相手も幸せにすることです。
そのためには安心感は重要なディシプリンで、約束事があります。率直、誠実、対等、自己責任を前提にして具体的には、
- 結果から話す
- 論理的に伝える
- 解釈と事実を分ける
- 科学的根拠、裏付けを示す
- 相手の言っていることを言い換えて確認する
- アイスブレイク(緊張をときほぐす)から始める
- 3分以内にまとめる
これは非常に効果的なテクニカルなアドバイスですが、コミュニケーションの実際は一生懸命に努力すればするほど、自分が障害になってしまいます。
人は縁起で、自分以外のところでどんどん変化するものだからです。
システム思考に学ぶコミュニケーションの本質
システム思考の法則では、因果関係の型に目を向けるように推奨しています。
因果関係には、直線型と循環型があり、私たちが意識しているのは主に直線型だといいます。
たとえばガソリンが不足気味だという噂が広まると、ガソリンスタンドに給油に押し寄せるので、ますますガソリンが不足する。やがてパニック現象が起こって買いだめに走るというのです。最近も英国で起こった現象です。新型コロナウィルスが引き金になってトイレットペーパーでもあった現象です。
小さな行動が、同一の現象をさらに生み出す雪だるま式に起こる因果関係を直線的と表現しているのです。同じ事例は良い事でも起こります。良い商品の場合、売上が増えると口コミで情報の共有が起こってさらに売れて、商品がいつ入荷するかもわからないというのも同じ現象です。「人気」という言葉に表れているように、加速度的な成長か、衰退が現象として起こるので、直線型のプロセスは把握しやすいのが特徴です。天候不順もその類です。同じことは人間関係でも発生します。急速に近づく、あるいは疎遠になることはだれも体験しているのではないでしょうか。
これに対して循環型の因果関係は気づきが遅いのが特徴です。
循環型の因果関係
循環型(=バランス型ループ)は、目標が暗黙である場合が多く、誰もが認識していないのが特徴です。抵抗はデモのように目に見える場合が稀なのです。
つまりデモが起こる予兆があるはずなのです。
たとえばA男さんがB子さんとのコミュニケーションについて思いを巡らしていても、B子さんにはA男さんとの関係以外のことでA男さんと疎遠になる原因があります。仮にA男さんとB子さんが恋仲にあっても、B子さんがさまざまな人間関係のなかでC夫さんと出会い、急速に親しくならざるを得ない環境におかれたときに、たまたまA男さんが多忙で B子さんと疎遠になることはよくあることです。気がつくと関係性のバランスが崩れてB子さんとC夫さんが恋仲になっていた場合、A男さんの努力は、どこからともなく出現した「抵抗」によって無に帰すことがあるのです。
この場合、恋人関係のモラルが機能していると、B子さんはセーブするはずと固定的な考えが働きますが、B子さんはモラル以上に「寂しさ」が辛かったのです。
その原因が満たされなかった幼児期の「愛着不足」に起因する親子関係に由来するものなら、恒常的にすべての行動のトリガーになるので、無意識に原因になってしまいます。
これに気づくには表面的なつながりでは読み取れないので、余程親密なコミュニケーションをとる人に限定されます、
遅延に気づく
同じような現象がビジネスでもなんでも起こります。リーダーが模範である場合にはリーダーの仕事が基準になっていますが、どこからともなく変化が起これば、リーダーは仕事の仕方を変えるか、異なる模範を確立しなければ、同じ状態は維持できなくなってしまっているのです。「維持できなくなってしまっている」というのは「遅延」を意味します。「遅延」が起こるのは気づくのに時間がかかるからです。
冒頭に述べた効果的なテクニカルなアドバイスが、直線的であるのに対して、人間の暮らしは、人の「縁」によって生起し、結果に至ります。循環型の営みが一般的ですが、いつ起こるともわからない見えない「抵抗」に配慮するというのは、余程特別な関係でない限りしないものなので、物事が起こってから気づくのです。
特別な関係でなくても起こる「遅延」に気づく方法
特別な関係でなくても「遅延」は起こります。
食べ放題ビュッフェでは、胃袋の実際を脳が遅れて察知するので食べ過ぎが起こります。
この場合、食べる速度を落とせば変化に間に合うので「遅延」は防げます。
女性が、愛する男性の気持ちを知りたくて、気を惹くために試すような行動を繰り返すのは珍しいことではありませんが、やりすぎると仇になり、男性の気持ちが離れます。この場合、女性はやりすぎだと思っていないのが原因ですが、思えないのは、行為と実感の間に「遅延」があるからです。
どのような問題であっても「気づき」には時間差があることに注意が必要です。
つまりコミュニケーションに「時間差」を組み込まないと、本当の意味で、率直、誠実、対等、自己責任は達成できないのです。率直、誠実、対等、自己責任は遅延が起こらない対策でもあるのです。
私たちは良いコミュニケーションを求めるあまり、やりすぎてしまう習性に気をつける反面放置、関心の低さに注意しなければなりません。
まとめ
人は誰しも社会的な生き物で自分は価値ある者と思いたい。
そのために生きているといっても過言ではありません。
一方で現実は、諸行無常、移り変わるが世の常です。
移り変わるが世の常だから「遅延」はいつも起こり、起こるほどに「安心・安定」を求めています。
時間差は無意識の不安を招き入れています。
コミュニケーションの屋根に守られたい、そしてコミュニケーションの屋根の下「率直、誠実、対等、自己責任」の柱に、より強い「安心・安定」を感じて癒されたいのです。
ライフスキルとしてのアサーティブなコミュニケーション・スキルを身につけることがライフシフトの必須です。